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津地方裁判所 昭和45年(行ウ)6号 判決 1973年1月25日

伊勢市岩淵二丁目七番三三号

原告

有限会社福富商事

右代表者清算人

柴原宏敏

被告

伊勢税務署長

奥並弘

右指定代理人

浜卓雄

樋口錥三

右指定代理人

下畑治展

和田真

真弓勇

森本善勝

右当事者間の昭和四五年(行ウ)第六号青色申告書提出承認取消処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

(一)  被告が原告に対し、昭和四三年一二月二四日なした昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出の承認を取消す旨の処分は、これを取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、請求原因

一、原告は、昭和三三年五月一日、所轄税務署長である被告から青色申告の承認を受け、以後青色申告書による申告納税をしてきたものであるが、被告は、昭和四三年一二月二四日(ただし通知書記載の日付は昭和四四年一月二三日付)、原告の昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下昭和三九事業年度という。)の帳簿書類につき法人税法第一二七条第一項第一号および第三号に該当する事由があることを理由として、同年度以降の青色申告書提出の承認を取消す旨の処分をなし、原告は、昭和四三年一二月二六日、右処分の通知書を受領した。

二、原告は、右処分を不服として、被告に対し昭和四四年一月二四日異議申立をしたが、同年四月一九日付で右異議申立は棄却され、さらに同年五月一二日訴外名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は、昭和四五年四日一五日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

三、しかし、原告には右青色申告書提出承認の取消事由に該当するような事実は全くなく、被告の本件青色申告書提出承認の取消処分は違法であるので、原告は被告に対し、その取消を求める。

第三、被告の答弁および主張

一、請求原因第一項、第二項の事実は認めるが第三項の事実は否認する。

二、原告は、昭和三九事業年度において、別表記載のごとく公表帳簿外において合計四四通の手形割引を利率日歩約二〇銭の割合で行ない、その受取利息として金一、二五四、七〇〇円の収入があつたにも拘らず、右取引に関する帳簿書類の記録および保存がなく、原告の正規の帳簿書類には右取引を計上せず、これを隠ぺいして記載していたものである。よつて被告は、右事実が法人税法第一二七条第一項第一号および第三号に該当するものとして、本件青色申告書提出承認の取消処分をしたものである。

第四、原告の答弁および反論

一、原告が被告主張の各手形割引を行なつたとの事実は否認する。

二、原告会社は、昭和三九年当時手形割引を行う資金も不足し、また会社の経営方針としても日賦返済取引に重点を置くことになつていたもので、原告会社が被告主張のような手形割引を行なつた事実はない。もつとも、原告会社の顧客が他に取逸しないよう当時の原告会社代表者訴外柴原宏敏個人が、右顧客のため第三者に対し手形割引の仲介をしてやつたことはあるが、右柴原の仲介した手形割引分が、被告主張の手形と同一のものか否かは明らかでない。

第五、証拠

一、原告

甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし六、第二一号証、第二二号証の一ないし五、第二三号証を提出し、証人足坂昭一、同橋本品彦、同岩崎邦雄、同下畑治展(第三回)の各証言および原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙第七号証の一、二、第八号証、第一二号証の一ないし四、第一三号証、第一五号証、第一六号証の成立(第一三号証については原本の存在とも)は認め、その余の甲号各証の成立は不知。

二、被告

乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一ないし一〇、第一〇号証の一ないし九、第一一号証、第一二号証の一ないし四、第一三ないし第一六号証を提出し、証人下畑治展(一、二回)、同橋本品彦、同弓矢久郎の各証言を援用し、甲第一〇号証、第一七ないし第一九号証、第二〇号証の五、六、第二一号証第二二号証の一ないし五、の成立は不知、第八号証のうち印鑑登録証明書および公証人作成部分の成立のみ認め、その余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立(第二三号証については原本の存在とも)は認めた。

理由

一、原告が昭和三三年五月一日、所轄税務署長である被告から青色申告の承認を受け、以後青色申告書による申告納税をしてきたこと、被告が昭和四三年一二月二四日、原告の昭和三九事業年度の帳簿書類につき法人税法第一二七条第一項第一号および第三号に該当する事由があることを理由として、同年度以降の青色申告書提出の承認を取消す旨の処分をなし、同月二六日右処分の通知書が原告に到達したことについては、当時者間に争いがない。

二、ところで、証人橋本品彦の証言、同証人の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、第二号証、印鑑登録証明書および公証人作成部分の成立は争いがなく、その余の部分については原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる中第八号証によれば、訴外柴原宏敏が原告会社の取引としてなしたか、それとも個人の資格においてなしたものかはともかくとして、当時原告会社の代表取締役たる地位にあつた同訴外人が、訴外伊勢志摩真珠工芸株式会社代表者橋本品彦の依頼に応じて、同会社の所持する被告主張の別表記載の各手形を同表記載の各割引年月日に日歩約二〇銭の利息で割引き、同表記載の各割引利息を受領したことが認められ(ただし同表36の手形の割引利息は、前記乙第一、第二号証に照らし金二三、九〇〇円が正しいものと認められる)、右認定に反する証拠はない。

三、そこで、以下右各手形割引が原告会社の取引としてなされたものか否かについて検討することとする。

(一)  証人弓矢久郎、同岩崎邦雄(後記信用しない部分を除く)の各証言、右弓矢の証言により真正に成立したものと認められる乙第四、第五号証、成立に争いのない乙第一六号証によれば、本件の審査請求に関する名古屋国税局協議団協議官の調査の際、訴外有限会社御福餠本家代表者小橋信雄は、昭和三九年から同四〇年にかけて、同会社の所持する二〇数通の手形を日歩二三銭で原告会社に割引いてもらつた旨述べ、また訴外有限会社綿文ふとん店(以下綿文ふとん店という)代表者石崎邦雄は、昭和三九年から同四三年にかけ同会社の所持する合計一六通の手形を原告会社で月三分ないし五分の利息で割引いてもらつた旨述べたこと、右綿文ふとん店との間の取引は原告会社の社員である訴外柴原秀文が原告会社の日賦返済貸金の集金のため右綿文ふとん店を訪れた際、右秀文との間でなされていたものであることが認められ、右事実は昭和三九年当時原告会社がかなり多数の手形割引を行つていたことを推認させるものというべきである。右認定に反する原告本人尋問の結果真正に成立したものと認められる甲第一七号証、同第二一号証および証人岩崎邦雄の証言並びに原告本人尋問の結果は前記証拠に照らしたやすく信用できず、また原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の原告会社臨時社員総会議事録には、昭和三七年四月一〇日原告会社としては手形割引を行なわないとの決議がなされた旨の記載があるが、しかし前記乙第一六号証および原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社は貸金を業とするものであり、原告会社の三重県知事宛の貸金業届出書には、その業務の一つとして手形割引が掲げられており、また原告会社は設立以来親子、兄弟のみで社員を構成していたものであることが認められることに照らし考えると、前記甲第一〇号証の記載のみをもつて直ちに原告会社が昭和三九年ごろ手形割引を行なつていなかつたものとも認め難く、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  ところで原告は、会社として本件手形割引を行なつたことはなく、柴原宏敏個人が第三者に仲介してやつたものである旨主張し、証人橋本品彦の証言、原告代表者本人尋問の結果、前記甲第八号証には、右原告の主張に副う供述もしくは記載があり、それらによると、原告会社の勤務時間外に取引の連絡および金員の受領等がなされていたこと、および手形割引の取引の際には原告会社の計算書の交付等がなされなかつたことを根拠に原告会社の取引ではないとの説明がなされている。しかし、成立に争いのない乙第一二号証の一ないし四、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社は、前記柴原宏敏の自宅の一部をその事務所として使用していたものであることおよび、税務署に提出された原告会社の昭和三九事業年度から昭和四二事業年度の各事業概況説明書には、いずれも事業の性格および自宅営業の関係上営業時間等には制限がない旨記載されていることが認められるから、取引の行なわれた時間が会社の取引か否かを左右するものとは認め難く、また本件各取引はいずれも簿外取引としてなされたと主張されているものであるから、計算書等の交付がなされたか否かによつて、会社の行為か否かが決するとも解し難い。このように本件手形割引が原告会社の行為でないとする前記根拠は、いずれも右取引が原告会社の行為としてなされたものでないことの徴表とはいえず、しかも、柴原宏敏が右取引を仲介したという相手の人物は、原告代表者本人尋問の結果によるも何ら具体的に明らかにされず、本件全証拠によるも右人物の存在をうかがわせるに足る証拠は存しない。

(三)  さらに、前記乙第一号証、証人橋本品彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、成立に争いのない乙第七号証の一、二、証人下畑治展の証言(第一回)、原告代表者本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く)によれば、訴外伊勢志摩真珠工芸株式会社代表者橋本品彦は、名古屋国税局実査官の調査に際し、被告主張の各手形はいずれも原告会社に割引いてもらつた旨述べたこと、右訴外会社は昭和四〇年一二月二九日原告会社から一口金三、五〇〇、〇〇〇円として二口分合計金七、〇〇〇、〇〇〇円を借受けたが、そのうち一口分金三、五〇〇、〇〇〇円はその全額が、右訴外会社が昭和四〇年一二月二九日までに原告会社に割引いてもらつた手形の不渡り分およびそれに対する昭和四一年三月三一日までの利息の支払にあてられたことおよび、当庁伊勢支部に係属中の右訴外会社の破産事件において、原告会社は金六、二〇〇、〇〇〇円の破産債権の届出をしているが、右債権は昭和四三年に原告会社において右訴外会社振出の額面金六、二〇〇、〇〇〇円の約束手形を割引いたことを原因とするものであることが認められ、これらの事実は原告会社と前記訴外会社との間において昭和三九年以降継続的に手形割引の取引があつたことを推認させるものというべく、右認定に反する前記甲第八号証、証人橋本品彦の証言、および原告代表者本人尋問の結果は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

四、以上認定の事実を総合すれば、被告主張の本件各手形割引は、原告会社の取引としてなされたものと認めることができ、かつ、原告会社に右取引に関する帳簿書類の記録および保存がなく、また原告会社の正規の帳簿書類に右取引に関する記載のないことは、原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべく、右事実によれば、被告が原告に対し法人税法第一二七条第一項第一号、第三号に該当する事由があることを理由としてなした本件青色申告書提出の承認を取消す旨の処分は正当なものと認められる。

五、よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白川芳澄 裁判官 寺本栄一 裁判官 湯地紘一郎)

(別表)

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